企業が資金調達のためにファクタリングを利用するとき、「二重譲渡」してしまうケースがよくあります。1つの債権を2つ以上のファクタリング会社へ譲渡し、両方から資金を取得しようとするのです。
しかし二重譲渡をすると、かえって首を絞めてしまうおそれが高いので避けましょう。
今回はファクタリングで債権を二重譲渡するリスクをお伝えします。
1.債権の二重譲渡とは
ファクタリングを利用するとき、売掛債権や請負債権などの債権を「二重譲渡」してしまう事業者の方がおられます。
二重譲渡とは、1つの債権を2つ以上の相手へ譲り渡すことです。
1つの債権は当然、1人の人や会社にしか譲渡できません。2人以上に売り渡すと、どちらかに対しては支払い不能となってしまうからです。
資金調達に苦しくなると「2社以上から資金を取得したい」と考えて二重譲渡してしまうケースが少なくありません。
しかし二重譲渡は違法で犯罪になる可能性もあるので、やめましょう。
2.ファクタリングで債権を二重譲渡する5つのリスク
以下ではファクタリングで債権を二重譲渡すると具体的にどういったリスクが発生するのか、ご説明します。
2-1.契約違反、保証表明違反
ファクタリング契約では「二重譲渡してはならない」と定められています。契約書にその旨書かれていますし、ユーザーによる保証表明事項に入っているケースもよくあります。
それにもかかわらず二重譲渡をすれば、契約違反となってしまいます。
2-2.代金を支払えなくなる
ほとんどの事業者ファクタリングは「2社間ファクタリング」です。つまり譲渡人であるユーザー企業が自社で債権回収を行い、ファクタリング会社へ回収した債権を支払う方式です。
ただ二重譲渡すれば、当然払える相手は1社のみです。もう1社へは支払いができません。
支払いを受けられなかったファクタリング会社から支払いを請求され、大きなトラブルに発展してしまうリスクがあります。
2-3.取引先に通知されて信用を失う
多くの事業者が2社間ファクタリングを利用する理由は、主に「取引先にファクタリングの利用を知られたくないから」です。「ファクタリングを利用するほど資金繰りに苦しんでいる」と知られると信用問題にかかわるので、取引先からの回収はそれまでとおりにユーザー企業が行う約束にして取引先になるべく知られないようにするのです。
しかし債権回収が不能となれば、債権譲渡の原則とおりに新たに債権者となったファクタリング会社が取引先へ直接支払い請求をしてしまいます。
信用維持のために2社間ファクタリングを利用しても、二重譲渡が発覚すると取引先に窮状を知られてしまって信用を失うリスクが高まります。
2-4.解除や損害賠償請求をされる
債権を二重譲渡すると、支払いを受けられなかったファクタリング会社は損害を受けて損害賠償請求をしてきます。遅延損害金も加算されるなどして、もともと支払われた譲渡代金より高額な支払いが必要となるケースも少なくありません。
またファクタリング契約を解除されるので、最低でも以前に支払いを受けた資金の返還を求められるでしょう。
2-5.詐欺罪が成立してしまう
ファクタリングにおいて二重譲渡すると、詐欺罪が成立する可能性もあります。
「はじめから支払える見込みがなく支払う意思もないのに、支払うと嘘をついてファクタリングを申し込んだ」からです。
二重譲渡が発覚すると、後にファクタリングから刑事告訴されてしまうリスクが発生します。詐欺罪の罰則は「10年以下の懲役刑」であり相当重いので、軽く考えてはなりません。
2-6.事業継続できなくなることも
債権の二重譲渡を行ってファクタリング会社から高額な損害賠償請求を受けると、ただでさえ苦しい経済的な状況がさらに悪化して、事業の継続が難しくなってしまうケースもあります。
ファクタリング会社との話し合いで解決が難しい場合、訴訟を起こされるケースも少なくありません。
二重譲渡には非常に高いリスクがついてくるので、どれだけ資金繰りに困っていても絶対にやめましょう。
3.二重譲渡されたときの優先順位
債権の二重譲渡をしたとき、どういった順序で優先順位が決まるのかご説明します。必ずしも「先に契約したファクタリング」が優先されるとは限らないので、注意しましょう。
3-1.対抗要件を先に備えた方が優先
債権譲渡には「対抗要件」があります。対抗要件とは、他人へ権利を主張できる要件です。
ファクタリングも債権譲渡の一種なので、基本的に相手より先に対抗要件を備えた会社が優先されます。
3-2.対抗要件の種類
ファクタリング会社が主に利用する対抗要件は以下の2種類です。
第三債務者への確定日付ある通知
債権の譲渡人が第三債務者(取引先)へ内容証明郵便などの確定日付のある通知書を送ると、譲受人はその時点で対抗要件を備えられます。
債権譲渡登記
債権譲渡は登記できる権利です。債権譲渡登記をすれば、その時点でファクタリング会社は対抗要件を備えられます。
基本的には上記のいずれかを早く備えたファクタリング会社が優先すると考えましょう。
4.二重譲渡をせず適正にファクタリングを利用しよう
ファクタリングを利用するとき、二重譲渡はあまりにリスクが高いといえます。結果的に自社の首を絞めることになってしまうので、資金繰りのためとはいえやってはいけません。
資金調達を検討しているなら、適正な方法で優良なファクタリング会社を選定し、安全な方法で利用しましょう